怪盗ジンジャーブレッド(3)
相当期間が開いてしまってごめんなさい。
ちまちまと書き進めてきたので、怪盗ジンジャーブレッドの第3話を投下します。
前中後編だった気がしたが別にそんなことはなかったぜ!
た、多分次が最終話です……多分。
「はぁ、はぁ……」
「ふふ、どうだったかしら? 植物なんかにイかされる気分は」
人前で絶頂に導かれるという屈辱的な体験に打ちひしがれ、ぐったりと項垂れている少年を見下ろしながらラヴィアンは楽しそうに尋ねた。
改めて自らの受けた陵辱を再認識したジンジャーブレッドは羞恥に頬を真っ赤に染める。
「――っ! う、うるさい……っ!」
「あら、そんなつれない態度を取ってもいいの? 私がその気になれば、キミを一晩中その格好のまま放置して、明日ここにやってきた皆さんに見せてもらうこともできるけど?」
「なっ……!」
少年は驚きに目を見開く。もし夜が明けて美術館を訪れた大勢の観客にこんな場面を見つかってしまったら、間違いなく新聞やテレビの格好のネタになってしまうだろう。こんな惨めな姿を全国に晒されるということは、それは自分の怪盗としての――否、それどころか人間としての終わりを意味する。
「さあ、どうする? 大人しく負けを認めて二度と私の仕事の邪魔をしないと約束するなら、この拘束を解いてあげてもいいわよ?」
一時の敗北を受け入れて自由を得るか、それとも意地を通して生涯消えない屈辱を受けるか。損得で考えれば迷うまでもなく応じるべき提案。しかし、人一倍負けず嫌いの少年にとって、自ら降伏して敵に慈悲を乞うという行為は何よりも耐え難いものだった。
涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪えながら、少年は目の前にたたずむ相手を真っ直ぐに睨み付ける。
「だ、誰が……お前なんかに降参するもんか……!」
気丈にも提案を突っぱねるジンジャーブレッド。だがその声は羞恥のためか小刻みに震えていた。
「あら、ずいぶん嫌われたものね。ま、私としてはどっちでも構わなかったんだけど――キミがお望みなら、ここに展示されてる美術品と一緒に鑑賞してもら――」
「やっと追い詰めたわよ、怪盗ジンジャーブレッド!」
ラヴィアンの台詞は、不意に飛び込んできた警備隊長の喊声に遮られた。
「さあ、無駄な抵抗はやめて、覚悟しなさ――い?」
威勢良く啖呵を切った彼女の発言は、しかし、目の前で繰り広げられる光景に気づくと同時に途切れてしまう。
植物園の真ん中で、ジンジャーブレッドの傍に佇む見知らぬ女性。
そして、何故か全裸で四肢を蔦によって拘束されているジンジャーブレッド。
先陣を切って飛び込んできた隊長も、その後ろに控えていた隊員たちもあまりの出来事に絶句していた。
「くす……ちょうどよかったわ。せっかくだから、このお姉さんたちにも、君の恥ずかしい姿をたっぷり見せてあげなさい。
それじゃ、私は捕まらないうちに退散しようかしら?」
「あっ――ま、待ちなさいよ!」
慌てて警備隊長が止めようとするが、ラヴィアンがぱちんと指を鳴らすと同時に、周囲を花びらが舞い、彼女の姿を覆い隠す。
そして、花びらの旋風が止んだとき、その場に残されたのは女性警備隊の一同と、一糸まとわぬ姿で拘束されたジンジャーブレッドだけとなっていた。
しばらく事態が把握できずに困惑していた警備隊長は、やがて少年のほうへと向き直る。
「えーと……さっきの女の素性も含めて、あんたに聞きたいことは山ほどあるけど……その前に、おとなしく同行をお願いしましょう、か――」
言葉を紡ぎながらも、視線が少年の顔から徐々に下がっていく。
鎖骨から、胸を経由して臍へと泳ぎ、その下にある、男に特有の――
「~~っ! 見るな、このぉ……!」
「み、見てないわよっ!」
視線の先に気づいたジンジャーブレッドがうっすらと涙を浮かべながら抗議の声をあげると警備隊長は我に返り、慌てて目をそらす。
「う……ひっく、どっか行けよっ――!」
「そ、そういうわけにも行かないわよ……。とにかく、まずはこの鬱陶しい蔦を外すから動かないで……」
護身用のナイフを取り出し、ジンジャーブレッドを拘束している蔦を切ろうとする警備隊長だったが、一見柔らかそうに見える蔦はまるで金属のワイヤーのようにしっかりとその四肢を捕らえ、傷一つつく素振りもない。
「ん……あれ? くっ、何よこれ――全然切れないじゃない……」
力任せに押し切ったり、繊維に沿った方向に裂こうなどと試行錯誤するが、全く歯が立たない。
10分にも及ぶ悪戦苦闘の末、結局傷ついたのはナイフの刃のほうだった。
「はあはあ……仕方ないわ、本部に連絡を取って専用の器具を取り寄せ――」
ため息混じりに蔦をにらみつける警備隊長だったが、ふと何かに気づき言葉を途中で止めた。
最初は何の変化が起こっているか分からずに見過ごしそうになったが、しばらく注意深く眺めているうちにようやく違和感の正体に行き当たる。
先ほどまでは確かに存在しなかったはずの、ピンク色の蕾が蔦のあちこちに顔を出し、今にも花を咲かせようとほころび始めているのだ。
そして、警備隊長の視線の先に目をやったジンジャーブレッドも、少し遅れてそれに気づく。
――忘れようとしても忘れられない、羞恥の記憶がフラッシュバックする。
先ほどの陵辱は、いくら植物に扱かれて絶頂を迎えるという恥ずかしい姿を晒したとはいえ、結局はラヴィアン・ローズ一人に見られただけだった。
しかし、今回は違う。
今までにも何度か相対し、その度に出し抜いてきた大勢の警備隊員の見ている前で、これだけの蕾が花を咲かせたら――
「お、お願い、その蕾を――」
涙を浮かべながら、敵であるはずの警備隊長に哀願を始める少年だったが、無情にも彼の目の前で、いくつもの蕾が同時に開き始める。
ちまちまと書き進めてきたので、怪盗ジンジャーブレッドの第3話を投下します。
前中後編だった気がしたが別にそんなことはなかったぜ!
た、多分次が最終話です……多分。
「はぁ、はぁ……」
「ふふ、どうだったかしら? 植物なんかにイかされる気分は」
人前で絶頂に導かれるという屈辱的な体験に打ちひしがれ、ぐったりと項垂れている少年を見下ろしながらラヴィアンは楽しそうに尋ねた。
改めて自らの受けた陵辱を再認識したジンジャーブレッドは羞恥に頬を真っ赤に染める。
「――っ! う、うるさい……っ!」
「あら、そんなつれない態度を取ってもいいの? 私がその気になれば、キミを一晩中その格好のまま放置して、明日ここにやってきた皆さんに見せてもらうこともできるけど?」
「なっ……!」
少年は驚きに目を見開く。もし夜が明けて美術館を訪れた大勢の観客にこんな場面を見つかってしまったら、間違いなく新聞やテレビの格好のネタになってしまうだろう。こんな惨めな姿を全国に晒されるということは、それは自分の怪盗としての――否、それどころか人間としての終わりを意味する。
「さあ、どうする? 大人しく負けを認めて二度と私の仕事の邪魔をしないと約束するなら、この拘束を解いてあげてもいいわよ?」
一時の敗北を受け入れて自由を得るか、それとも意地を通して生涯消えない屈辱を受けるか。損得で考えれば迷うまでもなく応じるべき提案。しかし、人一倍負けず嫌いの少年にとって、自ら降伏して敵に慈悲を乞うという行為は何よりも耐え難いものだった。
涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪えながら、少年は目の前にたたずむ相手を真っ直ぐに睨み付ける。
「だ、誰が……お前なんかに降参するもんか……!」
気丈にも提案を突っぱねるジンジャーブレッド。だがその声は羞恥のためか小刻みに震えていた。
「あら、ずいぶん嫌われたものね。ま、私としてはどっちでも構わなかったんだけど――キミがお望みなら、ここに展示されてる美術品と一緒に鑑賞してもら――」
「やっと追い詰めたわよ、怪盗ジンジャーブレッド!」
ラヴィアンの台詞は、不意に飛び込んできた警備隊長の喊声に遮られた。
「さあ、無駄な抵抗はやめて、覚悟しなさ――い?」
威勢良く啖呵を切った彼女の発言は、しかし、目の前で繰り広げられる光景に気づくと同時に途切れてしまう。
植物園の真ん中で、ジンジャーブレッドの傍に佇む見知らぬ女性。
そして、何故か全裸で四肢を蔦によって拘束されているジンジャーブレッド。
先陣を切って飛び込んできた隊長も、その後ろに控えていた隊員たちもあまりの出来事に絶句していた。
「くす……ちょうどよかったわ。せっかくだから、このお姉さんたちにも、君の恥ずかしい姿をたっぷり見せてあげなさい。
それじゃ、私は捕まらないうちに退散しようかしら?」
「あっ――ま、待ちなさいよ!」
慌てて警備隊長が止めようとするが、ラヴィアンがぱちんと指を鳴らすと同時に、周囲を花びらが舞い、彼女の姿を覆い隠す。
そして、花びらの旋風が止んだとき、その場に残されたのは女性警備隊の一同と、一糸まとわぬ姿で拘束されたジンジャーブレッドだけとなっていた。
しばらく事態が把握できずに困惑していた警備隊長は、やがて少年のほうへと向き直る。
「えーと……さっきの女の素性も含めて、あんたに聞きたいことは山ほどあるけど……その前に、おとなしく同行をお願いしましょう、か――」
言葉を紡ぎながらも、視線が少年の顔から徐々に下がっていく。
鎖骨から、胸を経由して臍へと泳ぎ、その下にある、男に特有の――
「~~っ! 見るな、このぉ……!」
「み、見てないわよっ!」
視線の先に気づいたジンジャーブレッドがうっすらと涙を浮かべながら抗議の声をあげると警備隊長は我に返り、慌てて目をそらす。
「う……ひっく、どっか行けよっ――!」
「そ、そういうわけにも行かないわよ……。とにかく、まずはこの鬱陶しい蔦を外すから動かないで……」
護身用のナイフを取り出し、ジンジャーブレッドを拘束している蔦を切ろうとする警備隊長だったが、一見柔らかそうに見える蔦はまるで金属のワイヤーのようにしっかりとその四肢を捕らえ、傷一つつく素振りもない。
「ん……あれ? くっ、何よこれ――全然切れないじゃない……」
力任せに押し切ったり、繊維に沿った方向に裂こうなどと試行錯誤するが、全く歯が立たない。
10分にも及ぶ悪戦苦闘の末、結局傷ついたのはナイフの刃のほうだった。
「はあはあ……仕方ないわ、本部に連絡を取って専用の器具を取り寄せ――」
ため息混じりに蔦をにらみつける警備隊長だったが、ふと何かに気づき言葉を途中で止めた。
最初は何の変化が起こっているか分からずに見過ごしそうになったが、しばらく注意深く眺めているうちにようやく違和感の正体に行き当たる。
先ほどまでは確かに存在しなかったはずの、ピンク色の蕾が蔦のあちこちに顔を出し、今にも花を咲かせようとほころび始めているのだ。
そして、警備隊長の視線の先に目をやったジンジャーブレッドも、少し遅れてそれに気づく。
――忘れようとしても忘れられない、羞恥の記憶がフラッシュバックする。
先ほどの陵辱は、いくら植物に扱かれて絶頂を迎えるという恥ずかしい姿を晒したとはいえ、結局はラヴィアン・ローズ一人に見られただけだった。
しかし、今回は違う。
今までにも何度か相対し、その度に出し抜いてきた大勢の警備隊員の見ている前で、これだけの蕾が花を咲かせたら――
「お、お願い、その蕾を――」
涙を浮かべながら、敵であるはずの警備隊長に哀願を始める少年だったが、無情にも彼の目の前で、いくつもの蕾が同時に開き始める。