愛とマジックショー(7)
というわけで、愛とマジックショーの続きです。
このマジックは、私がマジックショーに目覚めるきっかけとなったネタをアレンジしています。
ほのかにエロい感じになってきます。
「私も、できればミナサンの期待にお応えして中の様子を見せて差し上げたいのはヤマヤマですが……残念ながら、このボックスはとても厳重なので、私でも手を出すことはできません。
そう――魔法でも使わない限りは、ネ?」
いくらでも仕掛けの施せそうなマジックの大道具を以て『とても厳重』というのは、ややもすると滑稽に聞こえる表現だが、単純に『魔法を使う』という発言のための前振りだろう。
観客が期待を込めた眼差しで見守る中、すっとリズが何も持っていない左手を掲げて軽く振ると、その中にはいつの間にか懐中電灯が握られていた。
「タネもシカケもない、懐中電灯でございます」
ステージの床に懐中電灯を向けて点灯させると、なるほど、くっきりとした光円が床に現れる。
まるで「確かめてみろ」とでも言うかのようにリズはその光の先をギャラリーの生徒の顔面に向ける。小さくうわっと叫んで両手を突き出して光を遮る反応に、周囲から軽く笑いが起きる。確かに普通の懐中電灯のようだ。
「それでは、ミナサンお待ちかねノ――」
多少もったいをつけながら、今度はライトをボックスに向ける。
どうやら、中の愛は既にセーラー服とスカートを脱ぎ終わり、ブラとショーツだけの姿になってしまったようだ。リズが懐中電灯を操作すると光円が直径2メートル近くまで広がり、愛の影をすっぽりと覆う。
これから始まるであろうマジックに期待し、観客たちは誰もが目を皿のようにしてその光を見ていた。
もしかしたらこの光が当たったところの壁が――
「――何を期待しているのデスか。別に、透けたりしませんよ?」
まるで心を読んだかのようにリズが観客の機先を制すると、密かにいやらしい期待をしていたギャラリーたちが慌てて視線を逸らす。
リズは観客たちの反応を満足気に見遣り、左手でボックスを照らしたまま、右手を少しづつライトとボックスの間に差し入れる。ボックスの壁――位置で言えば、下手を向いている愛の背後のあたりに、リズの右手のシルエットが浮かぶ。
「わんわん」
左手でライトを支えたまま右手で器用に犬の影絵を作って遊ぶリズ。愛のシルエットと合わさって、さながら愛の背後で犬が吠えているかのようだ。思わぬほのぼのとした光景に、観客席からくすくすと笑いが起こる。
「オー……どうやら、背後のワンちゃんにも気づかないほど、アイは着替えに夢中になっているようデス」
そんなリズの軽口も聞こえていないであろうボックスの中の愛は、しばらくの逡巡ののちに、ぷち、と後ろに手を回してブラジャーのホックを外して腕から抜く。シルエットとはいえ形のいい胸が解放され、重力に従うように小さく揺れる。
再び、観客席の空気は一変する。単なるショーだと頭では分かっていながらも、まるで隠れるように姿勢を低くしてちらちらと覗く者。あるいは周囲の目も忘れて思わず身を乗り出して見入ってしまう者。
反応は人によってまちまちだったが、誰もが愛の姿に釘付けになっていたという一点に関しては共通していた。
またもや観客の視線を愛に独占されてしまったリズは、困ったように肩をすくめてかぶりを振る。
「うーん……でも、ミナサンが私のアシスタントに夢中になってしまうのは、マジシャンとしてちょっとだけ、嫉妬してしまいます。
このままでは悔しいので――ちょっとだけ、イタズラしちゃいましょうか?」
わざとらしく頬を膨らませていたリズが、まるで素敵な悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。早くも犬の影絵で遊ぶのはやめたのか、右手の指をそっと伸ばし、ちょうどその影を愛の背中に向けて伸ばしていく。
既にショーツ1枚だけの姿になってしまった愛は、これから着替えるステージ衣装のトップを手に取ったところだった。その無防備な背中に、ゆっくりとリズの右手の人差し指の影が近づき……つつ、とまるで背中を撫でるように二つの影が触れ合った、その瞬間。
「ひゃぁっ!?」
ボックスから小さな悲鳴が漏れるとともに、びくり、と愛のシルエットがその背筋をぴんと伸ばし、ステージ衣装をボックスの床に取り落としてしまう。その勢いで愛の二つの胸の膨らみはぷるんと弾けるように揺れ、僅かにだがその先端に位置する突起の形までもが露わになる。
おおっというどよめきが観客たちが観客たちから漏れる。もちろん、影が触れたくらいで感覚が伝わるはずがない。実際には二人でタイミングを合わせて演技をしているだけだろうが、あたかも本当に触れたのかと思ってしまうほど真に迫った反応だった。
愛が慌てふためいた様子で舞台上手を振り返ると、リズはそしらぬ表情でそっぽを向き、無関係を装うように口笛を吹く仕草。
壁を隔てたリズの姿が愛から見えるはずなどないのだが、そのコントめいた小芝居にどっと笑いが巻き起こる。
シルエットの愛は、胸を隠しながら暫くの間訝しむように辺りを見まわしたり、ボックスの壁を探ったりしていたが、やがて諦めたのか床に落ちたステージ衣装のトップを拾い上げ、着替えを再開するためにステージ下手を向き直った。
そして、意を決したかのように腕を衣装に通すと、手早くトップを着用した。露わになっていた上半身がようやく覆われ、観客席からは安堵と落胆が複雑に入り混じったような吐息が漏れる。
もしかしたら、ショーツも脱ぐのだろうか――そんな淡い期待を少なからぬ生徒が抱いていたが、その期待を裏切るかのようにシルエットはショーツを穿いたままで衣装のボトムを拾って足を通していく。残念ながらボトムはショーツの上からでも着用可能のようだ。
だが、そのタイミングを見計らったかのように、再びリズが目を輝かせ、観客に目配せをすると抜き足差し足で再びボックスを懐中電灯で照らしながら近寄っていく。
先ほどまで愛の着替えを見逃すまいと夢中だった観客たちも、知らず知らずのうちに小さなマジシャンの一挙手一投足から目を離せなくなっていた。
リズは、先ほどと全く同じように愛のシルエットをライトで照らしながら、ボトムを穿くために屈んでいる背中に右手を伸ばしていく。少しだけ異なるのは、先ほどは人差し指一本で突くような手の形だったのに対して、今回は人差し指と親指の二本の指をまるでつまむように動かしていたことくらいだろうか。
「スリー、ツー、ワン……voila!」
まるでタイミングを計るかのようにそろそろと愛のシルエットの背中に右手の影を近づけて行き、一気に何かを掴んで引き寄せるかのような動作をする。
「ウップス……ちょっとオドかすだけのつもりでしたのに、思わぬものが釣れてしまいましたネ」
まるで失敗したとでも言わんばかりに自分の頭をこつんと小突き、リズは観客席を向き直った。
先ほどまで確かに何もつかんでいなかったはずのリズの右手には、長さ1メートル弱の布が握られていた。その布を、まるで戦利品のように客席に向けてひらひらと見せつける。前面に銀色のスパンコールをあしらった、黒い布。観客たちには、つい先ほどそれと同じものを見た覚えがあった。
それは、愛が着替えるためにボックスに持ち込んだはずの、ステージ衣装のトップだった。
このマジックは、私がマジックショーに目覚めるきっかけとなったネタをアレンジしています。
ほのかにエロい感じになってきます。
「私も、できればミナサンの期待にお応えして中の様子を見せて差し上げたいのはヤマヤマですが……残念ながら、このボックスはとても厳重なので、私でも手を出すことはできません。
そう――魔法でも使わない限りは、ネ?」
いくらでも仕掛けの施せそうなマジックの大道具を以て『とても厳重』というのは、ややもすると滑稽に聞こえる表現だが、単純に『魔法を使う』という発言のための前振りだろう。
観客が期待を込めた眼差しで見守る中、すっとリズが何も持っていない左手を掲げて軽く振ると、その中にはいつの間にか懐中電灯が握られていた。
「タネもシカケもない、懐中電灯でございます」
ステージの床に懐中電灯を向けて点灯させると、なるほど、くっきりとした光円が床に現れる。
まるで「確かめてみろ」とでも言うかのようにリズはその光の先をギャラリーの生徒の顔面に向ける。小さくうわっと叫んで両手を突き出して光を遮る反応に、周囲から軽く笑いが起きる。確かに普通の懐中電灯のようだ。
「それでは、ミナサンお待ちかねノ――」
多少もったいをつけながら、今度はライトをボックスに向ける。
どうやら、中の愛は既にセーラー服とスカートを脱ぎ終わり、ブラとショーツだけの姿になってしまったようだ。リズが懐中電灯を操作すると光円が直径2メートル近くまで広がり、愛の影をすっぽりと覆う。
これから始まるであろうマジックに期待し、観客たちは誰もが目を皿のようにしてその光を見ていた。
もしかしたらこの光が当たったところの壁が――
「――何を期待しているのデスか。別に、透けたりしませんよ?」
まるで心を読んだかのようにリズが観客の機先を制すると、密かにいやらしい期待をしていたギャラリーたちが慌てて視線を逸らす。
リズは観客たちの反応を満足気に見遣り、左手でボックスを照らしたまま、右手を少しづつライトとボックスの間に差し入れる。ボックスの壁――位置で言えば、下手を向いている愛の背後のあたりに、リズの右手のシルエットが浮かぶ。
「わんわん」
左手でライトを支えたまま右手で器用に犬の影絵を作って遊ぶリズ。愛のシルエットと合わさって、さながら愛の背後で犬が吠えているかのようだ。思わぬほのぼのとした光景に、観客席からくすくすと笑いが起こる。
「オー……どうやら、背後のワンちゃんにも気づかないほど、アイは着替えに夢中になっているようデス」
そんなリズの軽口も聞こえていないであろうボックスの中の愛は、しばらくの逡巡ののちに、ぷち、と後ろに手を回してブラジャーのホックを外して腕から抜く。シルエットとはいえ形のいい胸が解放され、重力に従うように小さく揺れる。
再び、観客席の空気は一変する。単なるショーだと頭では分かっていながらも、まるで隠れるように姿勢を低くしてちらちらと覗く者。あるいは周囲の目も忘れて思わず身を乗り出して見入ってしまう者。
反応は人によってまちまちだったが、誰もが愛の姿に釘付けになっていたという一点に関しては共通していた。
またもや観客の視線を愛に独占されてしまったリズは、困ったように肩をすくめてかぶりを振る。
「うーん……でも、ミナサンが私のアシスタントに夢中になってしまうのは、マジシャンとしてちょっとだけ、嫉妬してしまいます。
このままでは悔しいので――ちょっとだけ、イタズラしちゃいましょうか?」
わざとらしく頬を膨らませていたリズが、まるで素敵な悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。早くも犬の影絵で遊ぶのはやめたのか、右手の指をそっと伸ばし、ちょうどその影を愛の背中に向けて伸ばしていく。
既にショーツ1枚だけの姿になってしまった愛は、これから着替えるステージ衣装のトップを手に取ったところだった。その無防備な背中に、ゆっくりとリズの右手の人差し指の影が近づき……つつ、とまるで背中を撫でるように二つの影が触れ合った、その瞬間。
「ひゃぁっ!?」
ボックスから小さな悲鳴が漏れるとともに、びくり、と愛のシルエットがその背筋をぴんと伸ばし、ステージ衣装をボックスの床に取り落としてしまう。その勢いで愛の二つの胸の膨らみはぷるんと弾けるように揺れ、僅かにだがその先端に位置する突起の形までもが露わになる。
おおっというどよめきが観客たちが観客たちから漏れる。もちろん、影が触れたくらいで感覚が伝わるはずがない。実際には二人でタイミングを合わせて演技をしているだけだろうが、あたかも本当に触れたのかと思ってしまうほど真に迫った反応だった。
愛が慌てふためいた様子で舞台上手を振り返ると、リズはそしらぬ表情でそっぽを向き、無関係を装うように口笛を吹く仕草。
壁を隔てたリズの姿が愛から見えるはずなどないのだが、そのコントめいた小芝居にどっと笑いが巻き起こる。
シルエットの愛は、胸を隠しながら暫くの間訝しむように辺りを見まわしたり、ボックスの壁を探ったりしていたが、やがて諦めたのか床に落ちたステージ衣装のトップを拾い上げ、着替えを再開するためにステージ下手を向き直った。
そして、意を決したかのように腕を衣装に通すと、手早くトップを着用した。露わになっていた上半身がようやく覆われ、観客席からは安堵と落胆が複雑に入り混じったような吐息が漏れる。
もしかしたら、ショーツも脱ぐのだろうか――そんな淡い期待を少なからぬ生徒が抱いていたが、その期待を裏切るかのようにシルエットはショーツを穿いたままで衣装のボトムを拾って足を通していく。残念ながらボトムはショーツの上からでも着用可能のようだ。
だが、そのタイミングを見計らったかのように、再びリズが目を輝かせ、観客に目配せをすると抜き足差し足で再びボックスを懐中電灯で照らしながら近寄っていく。
先ほどまで愛の着替えを見逃すまいと夢中だった観客たちも、知らず知らずのうちに小さなマジシャンの一挙手一投足から目を離せなくなっていた。
リズは、先ほどと全く同じように愛のシルエットをライトで照らしながら、ボトムを穿くために屈んでいる背中に右手を伸ばしていく。少しだけ異なるのは、先ほどは人差し指一本で突くような手の形だったのに対して、今回は人差し指と親指の二本の指をまるでつまむように動かしていたことくらいだろうか。
「スリー、ツー、ワン……voila!」
まるでタイミングを計るかのようにそろそろと愛のシルエットの背中に右手の影を近づけて行き、一気に何かを掴んで引き寄せるかのような動作をする。
「ウップス……ちょっとオドかすだけのつもりでしたのに、思わぬものが釣れてしまいましたネ」
まるで失敗したとでも言わんばかりに自分の頭をこつんと小突き、リズは観客席を向き直った。
先ほどまで確かに何もつかんでいなかったはずのリズの右手には、長さ1メートル弱の布が握られていた。その布を、まるで戦利品のように客席に向けてひらひらと見せつける。前面に銀色のスパンコールをあしらった、黒い布。観客たちには、つい先ほどそれと同じものを見た覚えがあった。
それは、愛が着替えるためにボックスに持ち込んだはずの、ステージ衣装のトップだった。