唯とマジックショー 中編
そして、マジックショー当日。
煌びやかに飾り付けられた体育館は、ショーを見ようと押し寄せた生徒たちで賑わっていた。
「ミナサン、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございマス! お礼に、ミナサンに素晴らしい時間をお届けすることをお約束いたしまショウ!」
もっともらしい口上を述べながら、タキシード姿に身を包んだリズがステージに向かって恭しく一礼すると、館内に拍手が巻き起こる。
そして、リズは右手を掲げ、隣に並ぶもう一人の少女を紹介する。
「続いて……本日の私のステージにご協力イタダク、勇気あるアシスタントを紹介いたします!
サクラ・ユイさんです!」
制服姿の唯が、リズの隣で観客席に向かって小さく一礼した。だが、もちろん素直に協力するつもりなど毛頭ない。
今日のステージに向けて何度かリハーサルを行っていたため、ショーの段取りは完全に分かっている。
とはいえ、最初からショーをぶち壊しにしてしまったのではつまらない。
途中まではアシスタントに徹したうえで、一番盛り上がるシーンで大恥をかいてもらう。その計画も既に整っていた。
煌びやかに飾り付けられた体育館は、ショーを見ようと押し寄せた生徒たちで賑わっていた。
「ミナサン、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございマス! お礼に、ミナサンに素晴らしい時間をお届けすることをお約束いたしまショウ!」
もっともらしい口上を述べながら、タキシード姿に身を包んだリズがステージに向かって恭しく一礼すると、館内に拍手が巻き起こる。
そして、リズは右手を掲げ、隣に並ぶもう一人の少女を紹介する。
「続いて……本日の私のステージにご協力イタダク、勇気あるアシスタントを紹介いたします!
サクラ・ユイさんです!」
制服姿の唯が、リズの隣で観客席に向かって小さく一礼した。だが、もちろん素直に協力するつもりなど毛頭ない。
今日のステージに向けて何度かリハーサルを行っていたため、ショーの段取りは完全に分かっている。
とはいえ、最初からショーをぶち壊しにしてしまったのではつまらない。
途中まではアシスタントに徹したうえで、一番盛り上がるシーンで大恥をかいてもらう。その計画も既に整っていた。
最初のうちは、つつがなくマジックショーが進行していった。
簡単なカードマジックから、ボールやフープを使ったマジック、テーブルを浮遊させるマジックなど、ステージマジックとして非常にポピュラーなものだ。
観客たちはステージ上で起こる不思議な現象に驚いたり、リズの軽快なトークに笑ったりしながら、時間はあっという間に過ぎていった。
やがて、ショーが進むにつれ、大掛かりな道具などが使われるマジックに移行する。
マジックボックスを使ったジグザグ──ちなみに、三段に重ねた箱の中にアシスタントを入れ、段をずらしたり剣で貫いたりするマジックのことだ──が終わると、観客の間で盛大な拍手が起こる。
ギャラリーたちの反応に満足そうな笑顔を浮かべ、リズは次の演目に向けた準備に入る。シルクハットを右手に持ち、左手をシルクハットの中に突っ込む。
リズが手をシルクハットの中から引き抜いたとき、その中からはきらびやかな銀色のセパレート衣装が握られていた。
さらに、舞台下手の袖の方から、人間一人が入れそうな、白いプラスチックのボックスが運び込まれる。
「サテ──ソレデハ、次の演目の前に、お色直しに入りたいと思います。私のアシスタントには、このボックスの中に入って……」
「ちょっと待って、リズ──どうせだったら、その衣装は、リズが着た方が似合うんじゃないかしら?」
「──ハイ?」
流れるような調子で説明するリズを、横から遮ったのは唯だった。
予定では、このボックスの中に入り、ステージ衣装に着替えるのはアシスタントである唯の役割だ。もちろん、ただ着替えるだけではマジックにならない。
唯が制服を脱ぎ捨ててステージ衣装に着替えている最中に、リズがこっそりとボックスに近づき、観客席側の壁を思いっきり開けてしまうのだ。
もちろん、観客としてはあられもない唯の姿を期待するだろうが、扉を開けると唯の姿は消え失せており、着替え終わった状態でステージ端から現れるというのが筋書きだ。
きょとんとした反応のリズに対して唯は当然のように畳み掛ける。
「あら……だって、そんなにセクシーな衣装ですもの。外国人モデルみたいなリズが着てくれた方が、みなさんも喜ぶんじゃないかしら。
──そうでしょ、みんな?」
唯がギャラリーの方を向き直ると、観客席前の方から拍手が起こり、徐々に伝播するように体育館全体に広がっていく。予め唯が一部の生徒たちに対し、このタイミングで拍手をするように示し合わせていたのだ。
唯は観客席に届かないようにリズに囁きかける。
「くすくす……ほらね? 大丈夫よ、私がやるはずだった通りにすれば問題ないでしょ?」
「ンー……仕方アリマセンね、ユイがそこまで言うなら……」
頑なに拒否をしてショーが失敗に終わるよりはマシだと踏んだのだろう。リズは小さくかぶりを振り、ステージ衣装を持って観客席に向き直る。
「コホン。では、私は今からこの中で着替えさせて頂きマスが──クレグレも、覗こうとしたりしないでクダサイね?」
ステージ上での突然の筋書きの変更にも慣れているのだろう。リズはまるで初めからシナリオに組み込まれていたかのように軽い足取りでステージ中央に配置されたボックスに向かい、舞台下手側に配置された扉を開ける。
そして、観客席の方を振り返って悪戯っぽくウインクすると、軽い足取りでボックスの中へと入った。
パタン。
ボックスの扉が閉じると、ステージ上が薄暗くなり、エキゾチックなBGMが流れ始める。
そして、カチリ、とスイッチを操作する音とともに、観客席からどよめきが上がる。
ボックス前面の壁面に、リズのシルエットが映し出されたのだ。本人がボックスの中にちゃんと居ることを観客に分からせるための演出だろう。
中に入ったリズは、ボックスの上縁に先ほどのステージ衣装を引っ掛けた。
そして、自らのタキシードのボタンに手をかけ、ぷちぷちと外していく。
ざわ、と観客が一気に色めき立つ。まさか、本当にボックスの中でステージ衣装に着替えるのだろうか。
その様子を見ながら、唯はひっそりとほくそ笑む。当然、このマジックには仕掛けがある。
実はボックスの中にはハーフミラーが設置されており、ステージ衣装に着替えるスペースはハーフミラーの裏側にあるのだ。
観客たちは、ハーフミラーを透過したリズのシルエットを見ているに過ぎない。
唯が観客席側の壁を開けると同時にステージ上の照明が点灯し、観客からはあたかもボックスの中で着替えていたリズが消えたかのように見える、というわけだ。
文字に起こすと複雑だが、コインが消える貯金箱と似たような原理である。
だが、もちろん唯には筋書き通り進めるつもりなど毛頭なかった。
実は、前日のうちに体育館に忍び込み、ボックスの中のハーフミラーをただのガラス板と入れ替えておいたのだ。
当然、ボックスの壁を開けると、ガラスの向こうで着替えているリズの姿が丸見えになってしまうという寸法だ。
まさかそのような細工が仕掛けられているなど考えもしていないのだろう。既にタキシードを脱ぎ捨てたリズのシルエットは、下に着ていたシャツのボタンを外していく。
観客に見せることを意識したその艶めかしい動きは、着替えと言うよりもストリップでもしているのかのようだ。
ひょい、とボックスから外に投げ捨てると、観客から思わずため息が漏れる。次はいよいよ下半身だ。スラックスのボタンを外すと、足を交互に引き抜いていく。ほっそりとした脚線が観客たちに露わになる。
ごくり、と観客たちが喉を鳴らす。シルエットしか見ることができないが、ボックスの中ではリズが下着姿になっているのだ。否応なくその姿を想像してしまうのも無理はない。
だが、これで終わりではないことを、唯は分かっていた。際どいデザインのステージ衣装は下着も脱がないと着られない。
唯がボックスの壁を開くのは、最後の一枚を脱いだ後だ。そう、リズには全校生徒が見ている前で、全裸を晒してもらう。
リズのシルエットは、焦らすようにゆっくりと両手を背中に回すと、ぷち、とブラジャーのホックを外した。そして、肩からするするとストラップを抜いていき、左手で軽く胸を押さえながら右手の親指と人差し指でブラジャーを摘まんで体から離す。
ぱさり、とボックスから放り投げられたブラジャーがステージに落下する。真っ赤でセクシーなデザインに観客たちの目は釘付けだ。
まさか、本当にリズがあの中でトップレスに? そのような期待に応えるかのように、箱に映ったシルエットは胸を抑えていた腕を下ろす。
柔らかそうな膨らみと、その頂点にわずかながらはっきりと見える、小さな突起。男子たちはもちろん、女子までもが思わず声を出してしまいそうになるのを慌てて押し殺した。
いや、流石に学校のショーでそこまでするはずはない。でももしかしたら。そのような期待が入り混じり、観客たちは興奮に鼓動を速めながら、リズの姿を見逃すまいと目を皿のようにしていた。
残るは最後の1枚。全校生徒たちが固唾を飲んで見守る中、リズは腰に手を当て、するすると下ろしていった。
簡単なカードマジックから、ボールやフープを使ったマジック、テーブルを浮遊させるマジックなど、ステージマジックとして非常にポピュラーなものだ。
観客たちはステージ上で起こる不思議な現象に驚いたり、リズの軽快なトークに笑ったりしながら、時間はあっという間に過ぎていった。
やがて、ショーが進むにつれ、大掛かりな道具などが使われるマジックに移行する。
マジックボックスを使ったジグザグ──ちなみに、三段に重ねた箱の中にアシスタントを入れ、段をずらしたり剣で貫いたりするマジックのことだ──が終わると、観客の間で盛大な拍手が起こる。
ギャラリーたちの反応に満足そうな笑顔を浮かべ、リズは次の演目に向けた準備に入る。シルクハットを右手に持ち、左手をシルクハットの中に突っ込む。
リズが手をシルクハットの中から引き抜いたとき、その中からはきらびやかな銀色のセパレート衣装が握られていた。
さらに、舞台下手の袖の方から、人間一人が入れそうな、白いプラスチックのボックスが運び込まれる。
「サテ──ソレデハ、次の演目の前に、お色直しに入りたいと思います。私のアシスタントには、このボックスの中に入って……」
「ちょっと待って、リズ──どうせだったら、その衣装は、リズが着た方が似合うんじゃないかしら?」
「──ハイ?」
流れるような調子で説明するリズを、横から遮ったのは唯だった。
予定では、このボックスの中に入り、ステージ衣装に着替えるのはアシスタントである唯の役割だ。もちろん、ただ着替えるだけではマジックにならない。
唯が制服を脱ぎ捨ててステージ衣装に着替えている最中に、リズがこっそりとボックスに近づき、観客席側の壁を思いっきり開けてしまうのだ。
もちろん、観客としてはあられもない唯の姿を期待するだろうが、扉を開けると唯の姿は消え失せており、着替え終わった状態でステージ端から現れるというのが筋書きだ。
きょとんとした反応のリズに対して唯は当然のように畳み掛ける。
「あら……だって、そんなにセクシーな衣装ですもの。外国人モデルみたいなリズが着てくれた方が、みなさんも喜ぶんじゃないかしら。
──そうでしょ、みんな?」
唯がギャラリーの方を向き直ると、観客席前の方から拍手が起こり、徐々に伝播するように体育館全体に広がっていく。予め唯が一部の生徒たちに対し、このタイミングで拍手をするように示し合わせていたのだ。
唯は観客席に届かないようにリズに囁きかける。
「くすくす……ほらね? 大丈夫よ、私がやるはずだった通りにすれば問題ないでしょ?」
「ンー……仕方アリマセンね、ユイがそこまで言うなら……」
頑なに拒否をしてショーが失敗に終わるよりはマシだと踏んだのだろう。リズは小さくかぶりを振り、ステージ衣装を持って観客席に向き直る。
「コホン。では、私は今からこの中で着替えさせて頂きマスが──クレグレも、覗こうとしたりしないでクダサイね?」
ステージ上での突然の筋書きの変更にも慣れているのだろう。リズはまるで初めからシナリオに組み込まれていたかのように軽い足取りでステージ中央に配置されたボックスに向かい、舞台下手側に配置された扉を開ける。
そして、観客席の方を振り返って悪戯っぽくウインクすると、軽い足取りでボックスの中へと入った。
パタン。
ボックスの扉が閉じると、ステージ上が薄暗くなり、エキゾチックなBGMが流れ始める。
そして、カチリ、とスイッチを操作する音とともに、観客席からどよめきが上がる。
ボックス前面の壁面に、リズのシルエットが映し出されたのだ。本人がボックスの中にちゃんと居ることを観客に分からせるための演出だろう。
中に入ったリズは、ボックスの上縁に先ほどのステージ衣装を引っ掛けた。
そして、自らのタキシードのボタンに手をかけ、ぷちぷちと外していく。
ざわ、と観客が一気に色めき立つ。まさか、本当にボックスの中でステージ衣装に着替えるのだろうか。
その様子を見ながら、唯はひっそりとほくそ笑む。当然、このマジックには仕掛けがある。
実はボックスの中にはハーフミラーが設置されており、ステージ衣装に着替えるスペースはハーフミラーの裏側にあるのだ。
観客たちは、ハーフミラーを透過したリズのシルエットを見ているに過ぎない。
唯が観客席側の壁を開けると同時にステージ上の照明が点灯し、観客からはあたかもボックスの中で着替えていたリズが消えたかのように見える、というわけだ。
文字に起こすと複雑だが、コインが消える貯金箱と似たような原理である。
だが、もちろん唯には筋書き通り進めるつもりなど毛頭なかった。
実は、前日のうちに体育館に忍び込み、ボックスの中のハーフミラーをただのガラス板と入れ替えておいたのだ。
当然、ボックスの壁を開けると、ガラスの向こうで着替えているリズの姿が丸見えになってしまうという寸法だ。
まさかそのような細工が仕掛けられているなど考えもしていないのだろう。既にタキシードを脱ぎ捨てたリズのシルエットは、下に着ていたシャツのボタンを外していく。
観客に見せることを意識したその艶めかしい動きは、着替えと言うよりもストリップでもしているのかのようだ。
ひょい、とボックスから外に投げ捨てると、観客から思わずため息が漏れる。次はいよいよ下半身だ。スラックスのボタンを外すと、足を交互に引き抜いていく。ほっそりとした脚線が観客たちに露わになる。
ごくり、と観客たちが喉を鳴らす。シルエットしか見ることができないが、ボックスの中ではリズが下着姿になっているのだ。否応なくその姿を想像してしまうのも無理はない。
だが、これで終わりではないことを、唯は分かっていた。際どいデザインのステージ衣装は下着も脱がないと着られない。
唯がボックスの壁を開くのは、最後の一枚を脱いだ後だ。そう、リズには全校生徒が見ている前で、全裸を晒してもらう。
リズのシルエットは、焦らすようにゆっくりと両手を背中に回すと、ぷち、とブラジャーのホックを外した。そして、肩からするするとストラップを抜いていき、左手で軽く胸を押さえながら右手の親指と人差し指でブラジャーを摘まんで体から離す。
ぱさり、とボックスから放り投げられたブラジャーがステージに落下する。真っ赤でセクシーなデザインに観客たちの目は釘付けだ。
まさか、本当にリズがあの中でトップレスに? そのような期待に応えるかのように、箱に映ったシルエットは胸を抑えていた腕を下ろす。
柔らかそうな膨らみと、その頂点にわずかながらはっきりと見える、小さな突起。男子たちはもちろん、女子までもが思わず声を出してしまいそうになるのを慌てて押し殺した。
いや、流石に学校のショーでそこまでするはずはない。でももしかしたら。そのような期待が入り混じり、観客たちは興奮に鼓動を速めながら、リズの姿を見逃すまいと目を皿のようにしていた。
残るは最後の1枚。全校生徒たちが固唾を飲んで見守る中、リズは腰に手を当て、するすると下ろしていった。